山形テレビ開局55周年記念番組 時代の波に抗えますか~黒川 能農 物語~

「能」と「農」をいかに守り継承していくのか。伝統的な方法を踏襲する世代と時代に合わせた継承のあり方を模索する世代。手法は違えど試行錯誤しながら時代の波に抗う役者たちのエンターテイメント。
2025年4月16日(水)
午後7時放送


山形県鶴岡市黒川地区で室町時代から500年以上にわたり継承されている国の重要無形民俗文化財。農業の神を祭る春日神社の氏子が代々継承し、中央では廃れてしまった古い演目も残る。約240戸の氏子は「上座」「下座」に分かれて能座を形成し、それぞれ約50人が農業や会社勤めをしながら役者として活動している。

毎年、旧正月の2月1日、2日に開催される神事。生年月日順で回ってくる上座、下座の「当屋」では舞台を自宅に入れ、夜通し能と狂言を上演する。




能舞台の大きさは約5.5メートル四方。遠藤家では舞台を自宅に入れ、観客のスペース
も確保するため、2025年1月下旬に邪魔な壁などを撤去し仏間も移動。また座の役者や観客たちにふるまう「凍み豆腐」なども用意する必要がある。壁の撤去や修復、「凍み豆腐」作りに伴う費用はすべて当屋が負担しなければならない。

大きな負担を理由に、本来名誉なはずの当屋を辞退する氏子も相次ぐ。今年の王祇祭については13人から当屋を辞退することを意味する「後見ず」の要請が出され、祭りの運営委員会で受理された。

これまで先祖が繋いできた黒川能を何とか継承していこうと奮闘する若手専業農家のグループがいる。下座の「くろかわ農人」だ。中心メンバーは蛸井志門さん(43)。蛸井さんたちが取り組むのはいわば“当屋請負業”だ。何も自分たちだけが動くのではない。知り合いの農家などに声をかけ、対応可能な人に当屋の仕事を依頼し分散させる。当屋の負担を減らして持続可能な王祇祭のあり方を模索している。「凍み豆腐」作りも地元食品会社にお願いした。
また蛸井さんたちは現在の農業のあり方もこのままでは維持できなくなると懸念している。高齢化や後継者不足が深刻化する中、農家の現役世代が協働して集約的な農業を確立していかないと廃業する農家は増え、そして黒川能の継承にも大きな禍根を残すことになると考えている。



伝統を重んじるのか、継承を優先して形を変えるのか。500年以上続く黒川能だが果たしてこれまで一度も形を変えずに受け継がれてきたのだろうか。黒川能役者たちに和泉流狂言師が残した言葉がある。「形にこだわるな、気持ちを残せ」このメッセージが空疎な響きで終わらぬよう、先人たちが今も見ている。
ナレーション

那須凜
劇団青年座所属
2022年読売演劇大賞杉村春子賞受賞
2025年紀伊國屋演劇賞個人賞受賞